技量審査場所のさみしさ
本日は技量審査場所10日目に行ってきました。会社忙しいのにな。しかし申し訳ないと思うなら行くなと自分でも思うので、まあ良いや。
10時過ぎに国技館へ到着しました。席まで行く間に森麗の取組を見逃したようです。まだ、序二段の取組が行われていました。両国駅で「国技館はどこですか」とタクシーの運転手に訊いているひとがいたので、目の前だよ見れば分かるよと思いましたが、国技館方面を見て、ああこれは見ても分からないなと思い直しました。
のぼりが出ていないからです。通常の場所では、関取の名を染め抜いた色とりどりののぼりがわんさかはためいています。邪魔なくらいです。でも今日はそれがありませんでした。「頑張ろう日本」と書かれたのぼりが数本あっただけです。これでは、そこが国技館だとはとても思えないでしょう。
入口でチケットもぎりの親方に、本日の取組一覧表を貰えるのですが、この一覧表もまたいつもとまるで違う雰囲気だったので、つい「いつもとずいぶん違いますね」と声をかけてしまいました。朝の空いている時間ですから、親方も少し話をしてくれました。広告を出せないので、とのことです。しかし、おかげで字は大きいし、番付を見やすく並べてあったと思います。
それから建物の正面に入って、この時間でお客さんがほとんどいないのはいつものことなのでどうでも良くて、ロビーの一番奥、そこにあるガラスケースを見て私は絶句しました。通常の場所ならば、真ん中に賜杯と、その他各種の賞品がギュウギュウに詰まっているはずのガラスケースです。今日は優勝旗と三賞の楯、それだけがぽつんとありました。
十両の土俵入りがやたら人数少ないのも、中継が無いのも、どすこいFMが無いのも、席で禁酒なのも、のぼりが無いのも、寄せ太鼓もはね太鼓も無いのも、懸賞が無いのも、全部それぞれさみしく感じていましたが、このガラスケースが一番さみしく感じました。
しいたけも梅干しも無いんだぜ! なんてネタっぽくする気にもなれないくらい衝撃を受けました。賜杯が無いとか表彰が無いとか、わりとあんまり気にしていなかったのに、私はとても衝撃を受けました。辞退であって向こうから嫌がられたわけでは無いですが、国内に限らず外国からもそっぽを向かれてしまった、そういう気持ちになりました。
国技館外での、今日の当日券はもう無いというアナウンスに残念そうにしているひとを何人も見ました。中入り後は平日にも関わらず通常の場所と同じ程度には観客がいました。でも、あのどうせたぶん形式に過ぎない表彰が全く無いというのは、なんだかとんでもないことだと、そう思いました。
とはいえ、基本的には楽しかったです。向正面だと少し呼出や行司の声が届きにくいですが、早い時間だと土俵上をすり足で動く足音や、組み合っているときに力士の荒い息づかいは聞こえます。行司だまりの行事の様子や、呼出さんたちの動きなど、正面からはあまり見えないものが見えて面白いのです。向正面では以前も一度観たことがありますが、そのときは枡席だったので見える範囲と角度が違い、新たな発見もありました。土俵入りのときのアナウンスをしているひとは、カンペ何も無しでやっていたのがスゲエけど、床にあぐらで座り込んでというのがちょっと間抜けだなとか。
その他、販売していないという話だった名物の焼き鳥が14日から復活して、5本600円ではなく4本500円でしたが販売があり、美味しくいただきましたし、トイレは相変わらずホテルや結婚式場のように奇麗でした。高見盛は同体取り直しで2番も観られて母は大喜びでしたし、私の好きな富士東も勝ちました。
貴乃花親方の協議の説明は簡潔で分かりやすく、妹に「審判長が正しい日本語で喋るのを初めて聞いた」と言わしめました。私も生では初めて聞きましたが、いやはや、土井たか子氏が「さん」付けで呼んだときのような斬新さでした。
「ただいまの取組についてご説明いたします。行司軍配は西方有利と見て軍配を上げましたが、東方の足が出るのが早いのではないかと物言いがつきましたが、協議の結果、体が落ちるのと足が出るのが同時であり、同体取り直しといたします」が「ただいまの取組は、体が落ちるのと足が出るのは同時として、同体取り直しとします」だもん。
もちろん、貴乃花親方以外は従来通りです。たぶん今後も貴乃花親方しか簡潔な喋りはしないでしょう。それにしても協議で土俵上にいるときの錣山親方の横顔の凛々しさは半端無いな。
今日は、朝10時過ぎから観ていて、物言いがついたのは2回、2回とも同体取り直しでした。
国技館の2階は天井のすぐ下あたりに最近の分から順番に、優勝力士の絵が飾られています。誰かそろそろ優勝しないと、白鵬がとるポーズが無くなってしまいそうです。刀の柄に手を置いているポーズなんか、校門の入口で竹刀を持って待ち構えている生徒指導の体育教師みたいな感じになっちゃってます。
その中で、平成21年の朝青龍は、とても彼らしいポーズでした。取組前の、最後の仕切りの後、くるっと向きを変えて左手で自分のまわしを叩く、その叩くために左手を高く掲げたポーズです。仕切りからきちんと朝青龍の取組を観たことがあれば、それが朝青龍が必ずやる仕草で、いかにも朝青龍だと分かると思います。シルエットクイズでも朝青龍だと判断出来る、彼らしい一瞬です。その姿を使ったものがあるということは、それまでただ化粧回しで仁王立ちしている良くあるポーズで作ったものばかりではなく、と工夫を凝らさねばならないほど、彼が優勝を重ねていたということです。
あんなにトイレも奇麗で8時間近く居座って無料は申し訳ないので、相撲協会へのお礼にはなりませんが、義捐金の寄付もしてきました。協会の実績にはなるのだろうからね。
もうそろそろ寄付も下火なのかもしれないですが、ここはもうちょっと商売人になって、取組終了後にはいろんな親方が、特に人気のある親方が、入口近くの募金箱で声をかけていたらもっとたくさん義捐金が集まるのではないかと思います。いやほんとに。
佐渡ヶ獄親方と握手どころか、目が合ってにっこりなんて、私それだけで万札つっこみそうです。
そういうところであざとくないのは相撲協会の良いところであり、物足りないところでもあります。初めて国技館に来たお客さん、これで楽しめたのかしら。少し心配になりつつ、あー千秋楽朝6時に行けば間に合うかなと思ってみたりしています。
ところで、私の好きな富士東を、間違えて芳東と、いくら続けて出てきたからって、間違えて呼んだ呼出さんは許さんぞという気持ちです。はい。三段目でも間違えて、呼び直していることが一度ありましたが、そのまま進んで行ったので、うおおおお富士東! なめられてるぞ! と悲しくなったのでした。